平成25年度 京都大学防災研究所 特定研究集会
「SARが切り拓く地球人間圏科学の新展開」まとめ

 平成25年8月22〜23日に京都大学宇治キャンパスにおいて、標題の研究集会を開催しました。 この研究集会は、18件の招待講演で構成され、全国の大学・研究機関・企業から54名が参加しました。 研究集会の目的は、学際的な連携が合成開口レーダ(SAR)に関係する諸分野の学術研究を切り拓くことになるという基本理解のもと、SARを用いた研究に 関する新たな学術領域を創生するための連携の構築・プロジェクト立案のための情報共 有や議論を行う、というものでした。
 近年の日本や欧州各国の地球観測衛星ミッションにより、高品質の衛星レーダ(SAR)画像が定期的に安定して提供されるようになってきています。 これらのSAR画像を用いて、人工構造物から列島規模までのマルチスケールの変動の検出や、 災害・環境変化等に起因する情報の抽出に関する研究が活発に行われています。 一方で、近年の衛星SARは対流圏や電離圏で受ける変化などの詳細な情報も捉えており、高品質SARデータの解釈には複数分野の知識が必要です。 このため、学際的なアプローチを進めることにより、個々の研究分野のフロンティアを開拓しようという気運が高まってきたことが、 連携強化の動きの背景となっています。
 研究集会一日目午前中には、宇宙航空研究開発機構、国土地理院、気象庁・気象研究所の現状および将来の取り組みに関する紹介があり、 情報共有が図られました。 これらの機関は、研究のためのプロダクトを提供しているという側面を有し、また、 学術レベルの向上により機関の提供サービスの幅が広がるという関係もあるため、学術コミュニティと連携していくことが重要です。 国土地理院や気象庁等の業務に利用するためには、観測頻度が重要という指摘がありましたが、 将来の衛星ミッションにつなげていくためには、高頻度観測データの有用性を示していく必要があります。 また、SARの認知度が必ずしも高くなく、成果物の説明で苦労することが多いとの話は印象的でした。
 一日目午後には、まず氷河・火山・地震・対流圏・電離圏に関する講演がありました。SARだからこそ見える現象 (例えば、火口内や断層近傍の変形・局地豪雨と関連する水蒸気分布など)に関する成果紹介があり、将来的にも、 このような「見えなかったものを見る」ことでフロンティアを開拓していく方向性の話が多くありました。 続いて、偏波利用に主眼を置いた理論や手法開発に関する講演がありました。 電波科学と電離圏科学等の融合により新たなサイエンスが生まれる可能性が感じられる内容でした。
 二日目午前中には、地すべり危険地域や油田の地表変動モニタリング等の防災やエネルギー安全保障に直結する利用化研究の話、 建物レベルの詳細スケールでのデータ利用可能性の話、航空機搭載小型SARの開発と運用に関する話がありました。 変位計測技術である干渉SARは、主に地震や火山などの自然現象を対象として発達してきましたが、ハードとソフトの技術進展により、 より詳細なスケールの変動も明らかにできるようになってきました。災害に対する脆弱性評価や資源開発管理等での利用化研究も今後重要になります。
 二日目午後には、総合討論の時間を設け、今後関連諸分野で連携し研究を推進していくために必要な事項について議論しました。 本年度中にALOS-2衛星(日本)やSentinel-1a(欧州)の打ち上げが予定されており、さらに高品質のデータが利用可能になる予定です。 これらの利用価値を高めるためにも、今後とも学術コミュニティのレベルアップに取り組んでいきたいと考えています。

(京都大学防災研究所 福島洋・橋本学)